走れメロスの山賊は王の命令だったのか?待ち伏せの真の目的を考える

小学校の国語教材として有名な「走れメロス」。

メロスが友との約束を守るため処刑場へと走る情景が印象的なこの作品ですが、予想もしない不運が幾度となくメロスに襲い掛かります。

その1つである山賊の襲来。メロスからは「王の命令」と語られていますが、その真偽について疑問を持った方は多いのではないでしょうか。

今回、山賊は本当に王の命令を受けていたのか?について考察したいと思います。

先に走れメロスの全文を読み直したい方は、以下のサイトよりご覧ください。

目次

山賊の登場シーン

山賊の登場シーンは、走れメロスの作中中盤、メロスが妹の結婚式を終えて処刑場に戻る3日目の帰路。

妹の住む故郷を余裕をもって出発したメロスは、王のもとに戻り処刑されることに一抹のつらさを感じ、自らを叱り、奮い立たせながらも、呑気に歌を歌い、歩き続けます。

しかしながら、前日からの雨による川の反乱という不運に見舞われ、やっとの想いで対岸に渡り切ったメロスに対し、追い打ちをかけるように山賊が現れるのです。

ぜいぜい荒い呼吸をしながら峠をのぼり、のぼり切って、ほっとした時、突然、目の前に一隊の山賊が躍り出た。
「待て。」
「何をするのだ。私は陽の沈まぬうちに王城へ行かなければならぬ。放せ。」
「どっこい放さぬ。持ちもの全部を置いて行け。」
「私にはいのちの他には何も無い。その、たった一つの命も、これから王にくれてやるのだ。」
「その、いのちが欲しいのだ。」

出典:https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/1567_14913.html ※以下引用部分についても同様

川を泳ぎ切ることで体力と気力を消耗してしまったメロスに、山賊は非情にも襲い掛かるのですが、ここでメロスは気になるセリフを発します。

「さては、王の命令で、ここで私を待ち伏せしていたのだな。」
山賊たちは、ものも言わず一斉に棍棒こんぼうを振り挙げた。

文章から読み取るに、メロスは山賊の襲来は偶然ではなく、「王の命令によって、メロスを襲撃をした」と考えていると思われます。

このシーンについて多くの方は「本当に王の命令だったのか?」と疑問を持ったのではないでしょうか。

山賊はメロスの問いに「ものも言わず」襲い掛かったため、真意を文章中から読み取ることはできません。

山賊は王の命令でメロスを襲ったのか?

ここまでのシーンを踏まえて、山賊は本当に王の命を受けていたのか?を考えてみましょう。

学校教育においては、「文章中の記述を読み取る」ことが重視される側面があり、メロスの発言通り「山賊は王の命令を受けていた」と考えられるケースが多いように思います。

一例として、北海道教育大学の学術リポジトリには釧路市立の中学校教諭が著した走れメロスの考察・授業要綱が格納されていますが、同著においては「山賊は王の命令によってメロスを襲撃した」と捉え、内容が展開されています。

参考:中学2年国語科 太宰治作「走れメロス」について

あるいは、メロスが「王にくれてやる」と発した自身の命に対し「その、いのちが欲しいのだ」と返答した山賊の言葉からも、王と山賊の関係性を読み取ることができるとも言えますね。

しかしながら、かいとー個人の見解は「山賊の出現は王の命令ではない」です。

その理由は、仮に王の命令だと捉えた場合にいくつか文中の内容や登場人物の心情と矛盾する点が出てくることにあります。

王の命令だった場合の「矛盾」

仮に王が山賊に命令をしていた場合、その目的は「メロスを処刑場に戻って来れないようにすること」に他なりません。

つまり前提として「王はメロスが処刑場に戻ってくると思っていた」ことになりますが、ここで1つの矛盾が生じます。王は冒頭で、「メロスは処刑場に戻ってこないだろう」と発しているのです。

「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。たった一人の妹に、亭主を持たせてやりたいのです。三日のうちに、私は村で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰って来ます。」
「ばかな。」と暴君は、嗄しわがれた声で低く笑った。「とんでもない嘘うそを言うわい。逃がした小鳥が帰って来るというのか。」
「そうです。帰って来るのです。」メロスは必死で言い張った。

それを聞いて王は、残虐な気持で、そっと北叟笑ほくそえんだ。生意気なことを言うわい。どうせ帰って来ないにきまっている。この嘘つきに騙だまされた振りして、放してやるのも面白い。そうして身代りの男を、三日目に殺してやるのも気味がいい。人は、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代りの男を磔刑に処してやるのだ。世の中の、正直者とかいう奴輩やつばらにうんと見せつけてやりたいものさ。

このように、「帰ってこないだろう」という考えを持っている王が山賊に命令してまでメロスを妨害するというのは考えにくいのではないでしょうか。

もう少し深く考えてみましょう。王は「逃げれば自身の無事は約束されるのに、わざわざ処刑されに戻ってくることはない」と考えてメロスを解放しました。

この行動の背景には少なからず、「本当に戻ってくるのか試してやりたい」、あるいは「威勢のいいことをいうが、結局友を裏切るメロスを嘲笑ってやりたい」という気持ちがあったと思われます。

仮に山賊が王の命令を受けメロスを襲撃したとすれば、最悪の場合メロスを再起不能にしてしまうかもしれない。

そうなってしまった場合メロスは「友を裏切り、帰ってこなかった」のではなく、単に「山賊に襲われて帰ってこれなかった」ということになってしまい、王の期待していたものとは本質的に違った結末になってしまうのです。

これらのことから、王自身の考えに違ってまで、山賊にメロスを襲撃させる意味はないのではないかと考えています。

尚、王である暴君ディオニスの人間性や心情については、別の記事で考察していますので是非ご覧ください。

山賊がメロスを待ち伏せした目的は?

仮に王の命令ではなかったとして、山賊がメロスを待ち伏せした目的は一体何だったのでしょうか。

そもそも山賊とは、山岳地帯や森など監視の目が届きにくい箇所に拠点を構え、通行人に対し盗賊行為を行う集団です。

現代では物品の陸路輸送には車両や鉄道、空路が利用されるようになったため、山中で略奪行為を行う意義が薄れ、衰退していると言われていますが、その目的は生計を立てること、あるいは勢力を拡大し権力を持つ、あるいは支配領域を広げることにあります。

そのためメロスを襲撃したことにも大きな意味があったわけではなく、1人で行動していたメロスが相手にしやすかったため、待ち伏せを行ったのではないでしょうか。

作中では友のもとに戻るという強い決意を持ったメロスに一蹴されてしまいますが、もしかするとメロスが命の他に金目のものをもっていなかったことも、メロスを見逃した1つの理由なのかもしれません。

おわりに

走れメロスは、メロスが友を身代わりにすることで自身は解放されるといる心理的な葛藤と、川の反乱や山賊の襲来といった物理的な困難を乗り越え約束を果たす物語です。

もともと王を自らの手で打ち倒すことを決意していたメロスにとっては、山賊の襲来が仮に偶然であっても「王の陰謀だ」と感じるような局面にあったでしょう。

繰り返しになりますが、本記事で考察したシーンには明確な正解は無いがゆえに、多くの学校において議題として取り上げられています。

是非この機会に考えてみることで、今一度「物語を読み解く」ことに親しんでみてください。

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