ゲームやスポーツにおいて、戦略・戦術は勝敗を決める重要な要素ですが、そんな戦術の一つとして「盤外戦術」という言葉を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
あるいはこの言葉に対して、正攻法ではなく、なんとなく卑怯…という印象を持つ方もいるかもしれません。
今回はそんな盤外戦術の意味や意義、具体例を通して、本当に卑怯な戦術なのかどうかを考えてみることにしましょう。
盤外戦術の意味と意義
盤外戦術はボードゲームを中心とした対戦型ゲームにおいて使用される言葉で、本来のゲームとは別に対戦中、あるいは対戦前後に行われる心理的な駆け引きや行為を指します。
元々は本来のゲーム(=盤上の戦い)に対して、その外の戦いをさす「盤外戦」という言葉が使われており、そこから派生して盤外戦における行動全般を総称して盤外戦術という言葉が使われるようになりました。
多くの対戦ゲームにおいては、プレイヤーの体力や技術力、思考力に加えて、それらを適切に駆使する判断力や、ゲーム終了まで維持する集中力が勝敗を決することはいうまでもありません。
盤外戦術の意義は、これらの力を本来のゲームとは別に低下させることで、盤上の戦いを有利に進める点にあるとされています。
盤外戦術の類義語
盤外戦術と近しい意味をもつ言葉としては、「メタゲーム」や「リアルファイト」といった言葉が挙げられるでしょう。
これらの用語についても簡単に解説します。
メタゲーム
メタゲームとは、リアルタイムで繰り広げられるゲームに対し、そもそも「対戦相手がどんな戦略をとるのか」を想定し、自身の戦略を決定する「ゲームの一歩手前における駆け引き」を指す言葉。
戦略の流行り廃りが顕著なトレーディングカードゲームや、オンラインゲームにおいてよく使われています。
「メタ(meta)」とは、「超越した」「高次の」といった意味をもつ英語の接頭辞で、「ゲーム中にどう戦うか」という次元より一つ上、すなわち「ゲーム中にどう戦うかを、どう決めるか」ということで、「高次のゲーム=メタゲーム」と捉えられますね。
盤外戦術とは、「ゲームの外で行われる戦い」という意味では共通しますが、メタゲームが性質上ゲーム前に発生するのに対し、盤外戦術は「ゲーム中におけるゲーム外の行動」も含む点が違いと言えるでしょう。
リアルファイト
リアルファイトとは、リアル(現実)でのファイト(戦い)という英語での意味通り、本来のゲーム上の戦いとは別に現実での戦い、つまりは殴り合いや喧嘩が怒ってしまうことを指す言葉です。
この言葉は子ども同士で、あるいは大人同士でも時たま起こってしまう争いをおもしろおかしく表現する言葉として、主にインターネットやSNSにおいて使われています。
このリアルファイトもゲーム外の行動ではありますが、あくまで単なる喧嘩であり、本来のゲームにおける勝利を目指して行われる盤外戦術とは異なるのが特徴。
ただし稀に、リアルファイトで対戦相手を戦闘不能に追い込むことで、本来のゲームを棄権させるといった盤外戦術の一種として行われる場合もあるようです。
具体的な盤外戦術の例
盤外戦術は、実際にはどのような形で行われているのでしょうか。
特に盤外戦術が発生しやすいゲームを例にとって紹介したいと思います。
将棋における盤外戦術
将棋の対局においては「運」の要素はなく、技術とそれを司る判断力・思考力のみで勝負が決まると言っても過言ではありません。
そのため、判断力・思考力を奪うものを含めた盤外戦術は一定の効果を持っているとされ、それらを得意としていたプロ棋士も少なからず存在していました。
- 対戦相手の過去の対局から、当日の戦略や打ち方のクセを分析する
- 事前に相手の戦略を批判することで、当日その戦略を使わせないようにする
- 対局の主催者に働きかけ、相手の不利な対局会場を設定する(立地が遠い、送迎がないなど)
- 対局会場の冷暖房を極端にし、相手を体調不良に陥れる
- 対局中に相手の集中力を削ぐ行動を行う(故意に音を鳴らす、扇子を動かすなど)
スポーツにおける盤外戦術
スポーツにおける「盤外」には、ファンを含めた観客など大勢の人が存在することも少なくないため、それらを巻き込んだ盤外戦術が繰り広げられるケースも珍しくないでしょう。
- ビジターのチームの不利(遠征を伴う、環境に慣れていない、応援が少ないなど)
- ファンを含めて、対戦相手のチームに強烈なブーイングを浴びせる
- 対戦相手を宴会に誘うなどして、体調を乱す
- プライベートの問題につけ込み、動揺を誘う
- 戦略を超えた極端なラフプレーを仕掛け、対戦相手を出場不能に追い込む
カードゲーム(遊戯王など)における盤外戦術
「遊戯王オフィシャルカードゲーム」のように認知度が高く、世界規模の大会や、それに伴う賞金・商品の提供が行われているようなゲームにおいては、驚くような盤外戦術で勝利を勝ち取ろうとするプレイヤーがいることも知られています。
- 対戦中にトイレに立つことで試合の制限時間を浪費する
- 強烈な体臭や匂いの強い香水で対戦相手を動揺させる
- ローカルルールや架空のルールを無理矢理適用し、状況を好転させる
- 対戦相手のカードを盗む、隠すなどしてレギュレーション違反に持ち込む
- カードのすり替え、マーキング等のイカサマ
オンラインゲーム(シャドウバースなど)における盤外戦術
オンラインゲームにおいては、ネット回線やサーバー、システムを介する都合上、それらに何らかの形で干渉するといったオンラインゲーム特有の盤外戦術も見られるようです。
- システムやアプリのバグを悪用しプレイする
- 回線やシステム、デバイスに負荷がかかる行動で相手の操作を困難にする
- 故意に通信を遮断し、負けそうな試合を不成立にする
- 悪意のあるチャットやスタンプを送信し、相手の集中を乱す
- 通勤通学時間帯で故意に試合を遅延させ、接続切れによる勝利を狙う
盤外戦術は卑怯なのか?
本来のゲームとは関係なく相手を撹乱する番外戦術は、卑怯な行為と言えるのでしょうか?
確かに実際に行われた盤外戦術を見てみると、「そんなの卑怯だ」と感じるものから、明確なルール違反、ともすれば犯罪になるような行為が少なくありません。
とはいえ、一口に盤外戦術といっても次のようなパターンに分かれ、それぞれ卑怯かどうか、つまり本当に「戦術」と読んで良いのかどうかが決まってくると考えています。
当然ながら、いずれのパターンにおいても相手の人権を侵害する、健康を損なわせる、傷付けることを伴う場合、その時点で「卑怯」を超えて「犯罪」に近しいことは肝に銘じておきましょう。
①事前の準備や駆け引きに属するもの
全く卑怯ではなく、イニシアティブを得るための立派な戦術と呼べるでしょう。
②ルールや規定の抜け穴を狙ったもの
私個人は、これらは戦術として認めて良いと考えています。
なぜなら、「ルールの抜け穴」ができてしまうのはゲームの開発者・運営者側の落ち度であり、それを活用したプレイヤーはあくまで「ルールに則っている」と言えるからです。
ただし多用すると印象を損ねるのは免れませんし、すぐに対策され使えなくなってしまうことは覚悟が必要でしょう。
③規定はない(規定するまでもない)が、マナーに反するもの
基本的には卑怯だと考えます。が、相手に直接害を与えるものではない場合、ある程度は「癖」や「こだわり」として許容される可能性もあります。
つまり、節度を守って行うのであれば「戦術」に含められる場合も無きにしもあらずです。
④明確なルール違反、もしくは犯罪行為
完全に卑怯であり、ゲームを崩壊させてしまうため絶対にNGです。
マナーを守った盤外戦術を
いかがでしたでしょうか。
盤外戦術の意味や具体例を理解すると、今回紹介した例に限らず意外と日常で「盤外戦術」が繰り広げられていることを実感できるのではないでしょうか。
テスト勉強で問題のクセを予想し、事前に対策を立てる。
じゃんけんで「私はグーを出す」と前もって宣言しておく。
ビジネスで見込み顧客を接待し、大口取引の成約を狙う。
これらも紛うことない「盤外戦術」と呼ぶことができるでしょう。
このような行為を行う場合に最も重要なのは、相手を不快にせず目的を達成できるラインを見極めること、すなわちマナーを守ることが最も重要であることを忘れてはいけません。