小中学校の社会では、日常生活ではなかなか知ることが出来ない、世界の歴史や農工商業の事情について学ぶことが出来ます。
しかしながら、馴染みがないがゆえに、「言葉だけは覚えている」ような内容も増えてしまうのが難しいところ。
そんな言葉の1つとして、「センターピボット」という単語が頭に残っている方はいませんか?
今回はそんなセンターピボットについて学んでみることにしましょう。
センターピボットとは?
センターピボット(Center Pivot)はアメリカを中心に利用されている農業方式で、降雨が少なく、川がない乾燥地域において広域に水を供給する灌漑(農地への給水)システムを指す言葉。
センター(中心)とピボット(回転軸)という言葉通り、円形の田畑の中心に建てられた回転する支柱と、そこから伸びたアームによって成り立っています。
センターピボットの仕組み
センターピボットの仕組みについて詳しく見ていきましょう。
センターピボットの水源は雨水や川ではなく地下水で、乾燥地域の地下に溜まっている地下水を汲み上げ、農業用水として利用しています。
汲み上げた地下水は肥料を加えられた後、支柱からアームを通して円形の田畑に散水されますが、この支柱が回転することによって定期的かつ自動的に、適切な量の水が農地に供給されるわけですね。
この際、支柱から離れるほど散水アームの通過速度が早くなるため、散水量を増やして給水量を均一にするといった工夫も取り入れられています。
アメリカ以外ではどこで行われている?
小中学校の社会で学ぶことも多いセンターピボット。
教科書ではもっぱら「アメリカ農業で活用されている」と説明されることが多いのですが、アメリカ以外にも多くの国でセンターピボットが活躍しています。
豊富な国土をもちかつ乾燥している国、具体的にはエジプトやサウジアラビアの農業において活用されることが多い農法です。
センターピボットは日本にもあるの?
このように乾燥地で活躍するセンターピボットですが、残念ながら日本の農業においてセンターピボット方式が選ばれることはまずありません。
日本はここまでに挙げた国と比較すると国土、あるいは農地が狭く、限られた土地で農業を行う必要があるため、センターピボット方式ではかえって効率、あるいは費用対効果が悪いことがその理由です。
また、日本は温帯で一定の降雨量があり乾燥地が少なく、また河川に富み農業用水が比較的豊富であることから地下水を利用する必要がないことも影響しています。
センターピボットの問題点・デメリット
「世界の食糧庫」とも呼ばれるアメリカの農業を支えるセンターピボットですが、近年ではそのデメリットが徐々に目立つようになり、敬遠されるケースも少なくないといいます。
センターピボットのデメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。
地下水が枯渇する
近年最も問題視されているのは、地下水の過剰採水による枯渇です。
センターピボットを用いた農地は主にアメリカの中西部に広がっていますが、その地下に位置する世界最大級の地下水の層、オガララ帯水層はこのまま採水が続けばあと50年で枯渇してしまうとも言われています。
地下水を中心とした水資源は、農作やその他の工業のみならず、一般家庭の水道にも必須。
万一地下水が枯渇してしまえば、これまで農業で潤っていた地域が一転、生活用水にも事欠くようになってしまうかもしれません。
塩害を誘発する
地下水には、周辺の土壌から溶け出した塩分などのミネラルが含まれています。
もちろん海水などと比較すると微量ではありますが、センターピボットにより地下水を使用し続けた結果、表層の土壌に塩分が蓄積し、徐々に塩害が発生しつつある状態なんだとか。
そもそも農地が乾燥地域に設けられていることもあり、農業用水が蒸発しやすい点も問題で、一度塩害が起こってしまうと、農業効率は大きく低下し、土壌を良好な状態に戻すには多大な労力が必要となってしまいます。
広大な土地が必要
センターピボットの設備を建設するには、十分なリターンが見込める、言い換えれば十分な量の農産物が収穫できるほどの土地が必要であることもデメリットとして挙げられるでしょう。
現在の日本の農業規模では、未だ人の手で農地を管理する方が効率が良い状態です。
また、センターピボットの構造上農地が円形となるため、農地内にどうしても水が行き届かない無駄な土地を産んでしまいます。
このようなデメリットもあり、限られた土地で農業を行う必要のある国土の狭い国ではセンターピボットが普及していません。
センターピボットのメリット
さまざまな問題やデメリットに直面しているセンターピボットですが、アメリカ農業を大きく成長させた立役者であることもまた間違いありません。
それではセンターピボットのメリットについてもご紹介しておきましょう。
乾燥地を農地として活用できる
地下水を効率的に給水することで、広大な乾燥地を農地として活用できる点は大きなメリットです。
日本でも古くから井戸が存在しているように、地下水を汲み上げること自体にさほど難しい技術は必要ありません。
しかしながら、組み上げ以上に労力を要する灌漑の部分、つまり地下水を均等に作物へと与えるまでを一手に担った点がセンターピボットの特徴。
アメリカの農業改革を力強く牽引したことはいうまでもありません。
設備の運用が容易
センターピボットは高い農業効率を実現しながらも、地下水を組み、回転し、水を流すのみの非常にシンプルな機能・設備で成り立っています。
そのため、機械に不慣れな農家の人々でも取り扱える簡易さも大きなメリットと言えるでしょう。
当然故障や設備の強化においてはエンジニアや技術者が必要となりますが、日々の運用で常駐する必要はありません。
水の管理に労力を割くことなく、最も重要な生産性向上に集中することができる点が多くの農家に支持されているんですね。
水を効率的に利用できる
デメリットとして地下水の過剰採水を挙げたものの、実はセンターピボット自体は水を効率的に利用できるシステムです。
日本では用水路等を使って農業用水を確保しているものの、蒸発などの要因で水を完全には利用できていません。
一方でセンターピボットは気候や地形に応じて散水量の調節ができる、あるいは蒸発によるロスを防止できていることから、節水に貢献したシステムなのです。
そのため先に挙げた地下水の枯渇や塩害といった問題点は、大規模化が進んだアメリカ農業全体が直面している課題と捉えた方が良いのかもしれません。
センターピボットから学ぶ世界の農業課題
センターピボットはアメリカ農業を代表する設備であり、その仕組みや問題点を学ぶことでアメリカ農業全体の問題点もまた浮き彫りとなります。
私たちが暮らす日本では乾燥地域というものも少なく、水不足に対する危機感を持つ人は少ないでしょう。
しかしながら、それならば私たちはアメリカの危機とは無関係なのでしょうか。
答えはノー。食料品をアメリカを含む海外諸国からの輸入に頼っている以上、日本がアメリカの水不足の一因だと言っても過言ではありません。
近年ではSDGsという言葉も取り沙汰されていますが、まずはできるところから。
この記事をきっかけに、地産地消や、食料ロスの防止について考えてみてはいかがでしょうか。