就職活動中の皆さんの中には、比較的高給で「かっこいい」イメージのある証券会社への就職を考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。
証券会社は銀行や信託銀行、保険会社と並ぶ「金融業界」の主要な会社の一つであり、「証券マン」という言葉も一般的となっています。
一方で「ノルマが厳しい」「勤務時間が長く残業が多い」といったマイナスのイメージがあることも否定できません。
証券会社の業務は本当にきついのでしょうか。今回は証券会社に入社した方の9割以上が配属される「営業」に関して、元証券マンの私からみた厳しさについて紹介します。
証券会社の役割や業務
証券会社を志望している方々の中でも、証券会社が果たしている役割や業務を正しく答えられる人は多くないのではないでしょうか。
そもそも証券会社の「証券」とは簡単に言えば、株や債券、投資信託といった「それ自体に財産としての価値があり、金融市場で売買されている商品」のことで、
証券会社はこれら証券取引の取次(投資家同士の取引の仲介)や、引き受け(自信が相手方となって売買を行うこと)といった取引を主な業務としている会社を指します。
有価証券が発行・流通される目的は多岐にわたりますが、よくあるケースの一つが国や企業が有価証券を発行し投資家に販売することで資金調達を行うというバターン。国債なんかも有名な例ですね。
仮に有価証券を発行したものの、買ってくれる人が思うように集まらず資金が調達できなかった…となってしまうと発行元は困ってしまいますね。
このようなことが無いように、発行前のサポートから発行後の投資家への販売などを行うことで国や企業の金融をサポートするのが証券会社の役割となります。
営業マンの主な仕事内容とやりがい
その中でいわゆる「営業マン」が果たす役割は基本的に、一人でも多くの投資家を集め、積極的に取引を行なってもらうこととなります。
前述した例を挙げると、国や企業が新たな有価証券を発行する際にはそれらを購入してくれる数多くの投資家を募る必要があります。
また、証券会社は証券売買の取次を行うことで発生する手数料で利益を上げていることもあり、投資家には少しでも多額の売買を行なってもらいたいもの。
経営者や医師、士業といった富裕層にアプローチを行い、数千万〜数億の取引を行なってもらうことができれば、場合によって一千万以上の利益を上げることができます。
とはいえ、資産家の方々は必ずしも金融市場に詳しくなく、またさまざまな会社から営業を受けているため、その中で自身の会社を選んでもらえるよう信頼を勝ち取ることが求められます。
具体的な業務は大きく二つあり、「新規開拓」と「既存顧客の関係維持、資産導入」に分けられます。
前者は文字通り新規顧客を開拓、つまりは自社に口座を開設してもらうこととなり、会社として取引の裾野を広げ取引をしてもらえる可能性を高める業務となります。
後者は新規顧客・既存顧客問わずに自社の口座に資産を移してもらうこと。新規開拓後、顧客に証券取引の元手となる資金を口座に入金してもらうことが取引の活性化に繋がります。
また、既存顧客でも銀行口座や他の証券会社に預けている証券、予算を自社に移し替えてもらうことで、より多額の取引をしてもらえるようアプローチすることが求められます。
いずれも「命の次に大事なお金を自社に預けてもらう」という意味で、強い信頼を勝ち取ることが営業マンの役割。
そして信頼を勝ち取った結果として大きな取引をしてもらうことで、自身の成績、ひいては会社からの評価や収入、役職を高めていくことが証券会社のやりがいであるといえます。
求められる能力やスキル
このような営業マンの業務においては、高度な金融知識はもちろんながら、顧客に信頼してもらうための人間性やスキルが求められます。
多様な金融商品を取り扱う証券会社においては、あらゆる商品の特徴やリスクを把握し、金融知識の少ない顧客にも正しく理解してもらえるように説明するための知識が必要です。
また、日々大きく動く金融市場において、「なぜこの商品がおすすめなのか」を伝えるために市場の動向を把握することも重要となります。
しかしながら実務においては、金融知識以上に大事になってくるのが顧客に信頼してもらうための能力。一例を挙げると、
- 断られてもめげずに、顧客とコミュニケーションを図る行動力
- 顧客が求めていることを汲み取り、提供する営業力
- 顧客に商品の良さとリスクを理解してもらうためのプレゼン能力
- 顧客からの依頼や約束事を確実に遂行する管理能力
- 「この人に任せたい」と思ってもらえる人間力
以上のような能力やスキルが、証券会社の営業マンとして強く求められるものとなります。
証券会社のノルマってきついの?
ハイレベルな知識やコミュニケーション能力が求められる証券会社の営業マンですが、世間一般的には「ノルマがきつい」というイメージも強いかと思います。
実際に証券会社の「ノルマ」にはどのようなものがあるのでしょうか。
営業マンには2種類のノルマがある
営業マンにおけるノルマもその中の1つなのですが、会社として絶対的に求められる「販売ノルマ」と、そのノルマを達成するための指標として求められる「行動ノルマ」の大きく2種類があります。
証券会社の業務、あるいはノルマに対する考え方は全国各地の支店ごとに微妙に異なっており、支店のトップである支店長、場合によってはさらにその上位のエリアマネージャーの考え方に依存しています。
例えば年配の支店長の場合はいわゆる「根性論」が横行するケースもありますし、比較的若手の支店長が管理する支店であればより合理的に業務が管理されている場合もあります。
「販売ノルマ」については支店問わず与えられるものなのですが、行動ノルマについては前者のような支店ほど、よりきついノルマが課せられるといったイメージになります。
販売ノルマについて
営業マンの成績や評価に直結するのが販売ノルマで、具体的には担当顧客の取引によって発生した「手数料収益」や新たに自社の口座に資金を移してもらった「資金導入額」などが代表的です。
またこれだけであれば良いのですが、さらに厄介なのが「特定の商品に対する販売額」。
特に会社が販売を強化する金融商品の取引額や、会社が引き受けた株式や債券を完売するために支店に、そして個々の営業マンに予算(≒ノルマ)が与えられるケースがほとんどです。
イメージとしては、会社がA社の株式を10億円分引き受け、支店にそのうち5000万円の販売が割り振られ、さらにそのうちの300万円を自分が販売しなければいけない、といった形。
この予算は時期によって異なり、企業の新規上場や債券の発行が多くなるとそれに伴い新たなノルマが課せられます。そのため、繁忙期には常に予算に追われているといった状態が発生するのです。
また、このことから自分の好きな商品や得意な商品だけを販売するにはいかず、「予算を与えられた商品」を買ってくれる人を見つけるために奔走することとなります。
さらには、予算のある商品が全て「条件の良い」商品であるとは限りません。時には「顧客に損をさせるしれない…」と思いながらもノルマ達成のために営業をかけることも必要となります。
ノルマを達成できなかった場合、他の営業マンに自分の分を販売してもらうこととなり肩身の狭い思いをすることに。この点が証券会社におけるノルマの苦しいところだと言えるでしょう。
行動量・電話件数に関するノルマ
商品販売額に対する予算と関連して、営業マンの行動量に対してもノルマが課せられる場合があります。
代表的なものが電話件数に対するノルマで、担当顧客が少なく多額の商品を販売することが難しい若手に対して重要視されるケースが多くなってきます。
とりわけ新規顧客への営業においては、日本全国に数多の「見込み顧客」がいる以上ほぼ無限に電話営業が可能であるといっても過言ではありません。
そのため「1日に500件以上電話しろ!」といったノルマが与えられることも珍しくはないのです。
実際の電話営業・テレアポにおいては、名乗った瞬間に電話を切られることも多いもの。それでも100件の電話をかければ1人くらいは話を聞いてくれる方は出てきます。
電話したけれど留守だった、というような運の要素も絡んでくるため、電話件数に対するノルマが課せられるのもある意味当然だといえます。
支店によっては販売額が予算に至らずとも、行動量のノルマを達成したうえでの結果であれば一定の評価をしてもらえる場合もあります。逆に、「販売もできず、行動量も伴っていない」営業マンが評価をされることは絶対にありません。
証券会社の勤務時間は長い?
ノルマと共にマイナスのイメージを持たれているのが「勤務時間の長さ」。実はこちらについては毎日深夜まで残業…というのはレアケースです。
それもそのはず、客商売である以上深夜に連絡をすることは迷惑にもなりますし、株式市場が15時に閉場するため、それ以降積極的に売買が入ることは基本的にありません。
逆に朝は9時から株式市場がオープンするため、その準備も含めて6時や7時に出社する営業マンも多いのですが、遅くとも21時くらいでは退社する社員がほとんどです。
同様に土日も基本的に金融取引は行われていないため、土日出社というのも多くはありません。
一応、支店によっては深夜残業や土日出社を推奨するケースもあるため、配属される支店次第と言わざるを得ませんが、近年は働き方改革の波や規制の強化もあるため、このような支店は徐々に減ってきているのではないでしょうか。
深夜残業や土日出社が発生するときもある
ただし、様々な事情により深夜残業や土日出社を余儀なくされる場合もあります。その理由は明確で、「販売ノルマを達成できていない時」です。
仮に個人として与えられた予算を達成していても、支店全体での予算が達成できていない場合は営業マン全員で未達成分を販売する必要が出てきます。
通常は日々の業務時間である程度なんとかなるのですが、支店に数億の予算が降りてきたような場合は通常業務ではままならず、達成のために土日出社を求められることもあるわけです。
深夜業務も同様で、日中では連絡が取りずらい顧客に夜遅くに連絡をすることで、少しでも早く予算を達成することが求められます。
また少々専門的な話になりますが、「当日の夕方に予算が与えられ、明日までに達成しないといけない」ケースがちょこちょこ発生します。
このような場合は当日の夜しか営業できる時間がないため、万一スムーズに販売が進まなかった場合は必然的に帰社時間が遅くなってしまいます。
仕事が辛いかどうかは人による
ここまで、証券会社の業務内容ややりがいと共に、ノルマや勤務時間のきつさについて説明しました。以上を総じて、証券会社の業務をきついと思うかどうかは人によるというのが正直なところです。
たとえ金融に関して深い知識があっても、コミュニケーションが得意ではなく、電話営業にストレスを感じる人にとっては、常に販売や電話件数でノルマを課される証券会社はきついと言えるでしょう。
逆にコミュニケーションが得意で、それに伴う行動力のある方、「断られること」にあまりストレスを感じない方にとっては証券会社はさほどきついものではありません。
そして証券会社の営業マンとして成功するのも後者の方がほとんどですので、自分こそはと思うかたはぜひ証券会社を目指してみるのが良いのではないでしょうか。
また、幾度となく記載した通り配属され、所属する支店によってきつさが変わってくることも避けられません。こればかりは運の要素もあるため、所属した支店でうまく生きていくための術を身につけることが大切です。